AKIRANAKA

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March,2024

Spring/Summer 2024

Spring/Summer 2024

24SSコレクションではリゾートコレクションに続きクリスチャン・ボルタンスキーの作品から得た様々な視点をデザインに取り入れました。

ボルタンスキーの作品は死をテーマに関連させる事が多く重く暗いイメージが先行しがちですが、そこには死を通して生命を感じさせるという彼のポジティブなメッセージが隠れています。
また故人の写真が使用された多くの作品は、写真に写った人々の不在を提示することで同時に彼らが存在していた証を強く提示しているのです。
私たちがボルタンスキーの多くの作品から感じ取ったのは存在と不在の境界に浮上する様々な思いであり、限りある命やアイデンティティーの尊さです。

ボルタンスキーのモンタージュ作品に見られる偶発性から発展した今期のドレスは全く異なる二つのドレスを繋げたものであり、ベルトには記憶の保護を象徴する2つのリングが装飾されアイデンティティーの喪失と保護が同時に表現されています。
今シーズンのコレクションの多くはボルタンスキーの作品の中心にあるアイデンティティーや記憶という言葉に紐づいており、その変容や忘却のメタファーとしてデザインされています。

Spring Summer 2024 LOOK BOOK

また彼の代表作の一つメンシュリッヒ※で使用された故人一人一人の写真は元のコンテクストから遠く離されそれぞれの生涯には一切触れられていません。
二次的に使用した複製写真がその写真から本来の意味と機能を切り離しているのです。
今期のドレスやジャケット、ニット等にもこれと同じ思考が含まれており、意味から切り離すという試みは今期のコレクションの様々なディテールに見出すことが出来ます。

メンシュリッヒ アトリエリサーチボード

AKIRANAKAリサーチブックより

本来のコンテクストや意味から切り離す行為は、そのアイデンティティーを薄める事に繋がります。
小さな写真を何十倍にも拡大しモノクロにする事でボルタンスキーの作品は本来その写真が持つディテールや情報をぼやけさせています。
しかしそのぼやけた状態こそが観る人の想像の余地や空間を生み出すことも事実です。
彼自身が言った「作家の意図に導かれる事が重要ではなく、観るものが自身と作品を結びつける事が大事だ」という言葉はそこに明確に表れています。

私たちがこの様にコンテクストをディテールに取り入れたり、何かのメタファーとして洋服をデザインする理由はボルタンスキーのこの言葉に集約されています。
コンテクストを含む装いを纏う事はそれぞれの女性がそれぞれの理解を通して個人的な繋がりや結びつきをその洋服に見出す事です。
そしてそういった繋がりは洋服に宿る美しさや新しさに加え、精神的かつ知的な充足感を着る者にもたらすことが出来ます。

静かでありながら同時に力強さを持つシルエットやミニマルな表現の中に込められた今期の多くのデザインにはボルタンスキーが唱えた存在の儚さやアイデンティティーの尊さが込められています。
その多くは象徴的でありすべての人が初見で理解し得るデザインでは無いかもしれません。
しかしそれは今世界が失いつつある“想像するという行為“によって纏う人が個人の中に所有するモノであり、思想でさえ私たちが纏う事が出来るという証明なのです。