December,2023
私たちは様々な現実を非常に表層的に捉えてはいないだろうか?
情報は溢れる程に多いが、そのほとんどを編集されたカタチで向き合う私たちは本来そこに存在するリアリティーやアイデンティティーを見失っているような気がしていました。
記号化された存在、上塗りされたアイデンティティー、二時加工された情報には写し出されない本来は非常に尊いとされる何か、そこへと意識が向かって行きました。
今シーズン私たちはアイデンティーの価値、そしてその危うさや変容に思いを馳せる過程でChristian Boltanskiの作品へと導かれました。
MONUMENT – Drawing by AKIRA NAKA
クリスチャン・ボルタンスキーは1944年9月6日パリにて、ウクライナ系ユダヤ人の父親とフランス人の母親の間に生まれました。
ボルタンスキーが生まれた当初のパリはナチスドイツの占領下にあり、彼の作品には幼少期の経験が大きく影響している事がわかります。
1985年に発表した彼の代表作である「モニュメント」シリーズは子供の写真を祭壇状に並べ宗教的かつ神聖さを彷彿とさせる構成で設置し、そこへパーティーで使用するような雑多な照明を施す事で故人のイメージや尊厳をどう捉えるべきなのか、観るものの意識を不安定にさせています。
また喪失を感じさせる作品は、同時にそこに写る人々が実際に存在していた事を強く印象付けました。
一人一人のアイデンティティーを構成と装飾によって実際の存在から遠く切り離すという行為は、かえって観るものをそれぞれのアイデンティティーの想像へと導いていく、そんな風に感じられました。
「生」と「死」、また不在の証明が導く存在の痕跡は彼の多くの作品に共通して表現されています。
そしてそこに写る人々ひとりひとりのアイデンティティーがどの様に変容していくのかが非常に強く発せられているのです。
Resort 2024 Collection – AKIRANAKA NOTE
私たちはChristian Boltanskiの創作活動から多くを感じ、デザインへの発展の段階で下記の幾つかの方向性へと導かれました。
アイデンティティー(ID)の変容と喪失
人々の記憶と忘却
不在による存在の証明
偶発性
本意と異なる構成によるIDの変化
現存とイメージ
二次使用によるIDの変容
これらのキーワードをベースに今私たち自身が失いかけているものを見つめ直し、アイデンティティーの尊さやその変容する様をコレクションのデザインへと発展しました。
AKIRANAKA Resort 2024 Collection
前開きのディテールがヘムラインからデコルテに向けてグラデーションするように消えるジャケットは記憶の変容や忘却から発展した今季を代表するアイテムの一つです。ラペルや上襟だけでなく身頃自体の重なりを無くす事で表現されたミニマルなデコルテはジャケットのアイデンティティーを大きくそして美しく変容させたものです。
またカーテンやインテリア等に使われている幾何学的なレース柄を体に纏うものとして利用する事でその柄が持つイメージを洗練したアイテムもあり、ここでも存在する場所によってアイデンティティーに変容をもたらしています。
現存とイメージという視点からは、トレンチコート(ミリタリーユニフォーム)とイブニングドレスという対極に存在しているイメージをミックスする事でその二つの距離が変化するものである事を表現しました。
Christian Boltanski – Drawing by AKIRA NAKA
このコレクションには今失われつつある個々のアイデンティティーへの関心や意識を喚起すべく様々なIDの変容やIDの尊さのメタファーが込められています。
洋服は歴史の中で様々な象徴としてまた記号として使用されて来ましたが、現代の私たちが纏う記号がトレンドや美しさだけでなく、徳や関心、想像性へ繋がっていけるよう願っています。
AKIRA NAKA