AKIRANAKA

AKIRANAKA Official Website

April,2025

共鳴、そして共振

AKIRANAKAが4月24日、音楽家と写真家を交えた「共鳴、そして共振」を東京・中目黒の光婉Galleryで開催した。

これはランウェイショーを長らく行っていないAKIRANAKAが久々に開催したインスタレーション企画。服作りの上で得たアイデアを異なるジャンルの表現者へ伝達し、新しいものを生み出そうという試みである。

コラボレーションの過程は本ブランドのデザイナー・ナカ アキラと実際にコラボレーションしたチェリスト・河内ユイコ、写真家の武田大典の三者によるトークセッションのなかで明かされた。

その内容をもとに、4人目の共同制作者のつもりで本企画をレポートしたい。

左から、AKIRANAKAのナカ アキラ、チェリストの河内ユイコ、写真家の武田大典

まず確認したいのがAKIRANAKAの服作りにおけるスタンス。ナカが学んだのは、マルタン・マルジェラやグッチの現アーティスティック・ディレクターであるデムナらを輩出したベルギー・アントワープ王立芸術アカデミーのファッション学科。

服飾専門学校ではなく美大であることがポイントだ。ブランドとして「アティチュードを纏う」という姿勢を掲げ、コレクションを重ねてきた原点はここにある。

そしてナカが2025SSの題材として選んだのがゲルハルト・リヒターだった。1932年(現在93歳)、ドイツのドレスデンで生まれた彼は現代美術の流れのなかで、もはや古くさい形式とされていた絵画に新たな意味を与えたカリスマ。

彼が提唱した重要な概念が“Schein(シャイン)”である。ドイツ語で「光」や「仮象」、近代画が描いた現実ではなく実体を伴わない疑似空間とされる、この考えにインスパイアされた服作りを目指した。

さらにリヒターが「全てを等しく重要に、そして全てを等しく重要で無くする」と語った“フラット(等価)”という概念もAKIRANAKAに大きな影響を与えている。これを実践した結果が研究過程と実際に制作された服、ヴィジュアルの並列の3つを展示した会場展示。

特に過程の部分である、細かい資料を切り貼りと手書きのメモで作られた精細なコラージュには驚いた。コスパが悪すぎる。だが見栄えのいいコンセプトとステートメントなどChat GPTで手軽に生成できる今日、制作過程そのものを展示して魂を提示する行為はクリティカルだ。

そして服飾家が“等価”を推し進めると、もはや服を売ることはゴールではない。そこでナカは考えた。

「絵は持ち帰れないのに、持ち帰ってくるものがあるじゃないですか。気付きや理解、新しい視点、新しい美意識、創造性。それをファッションで体現できないのかなと」

そこでリヒターから得たクリエイティブなコンセプトを河内が音楽として、その音楽を武田が写真として表現してもらうという発想に至ったというわけだ。

デザイナーの創造性は見事に他者のなかで変容した。

河内はクラシック音楽をルーツに持ち、一本のチェロの音を重ねて複数人が演奏しているようなパフォーマンスを得意とする。

「私は現代アートに詳しくなくて、美術館で観たことはありますが、リヒターの作品については知りませんでした。すべてナカさんを通して得た印象だけ。自分で調べたりも一切しませんでした」

彼女がナカからのプレゼンテーションのみで作曲した楽曲がトークセッションの最後に生演奏された「an impression」。重厚感がある音色を重ねたハーモニーが提示され、低音のメロディがうごめき、エモーショナルな高いメロディを伴った盛り上がりを経て収束した。

それは冒頭から書き連ねてきた複雑な思考とは無縁の、琴線に直接触れる表現だった。この音に込められていた具体的な印象は本人以外に知る由もないが、もし河内がリヒターを意識し、難解な音楽にしていたら。きっと企画の後味は別物になっていただろう。

一連の創造で最後にバトンを受けたのが武田。河内の楽曲を三日三晩も聞き続けてイメージを重ねたという。

「自分が過去に撮ったものを見返しながら、リヒターの考えやユイコちゃんが感じたことに調和するような形でセレクトした写真を新たに再編集しました」

日常が滲んだような写真は“Schein”をダイレクトに感じさせたし、ありふれた光景をユニークな構図で切り取った写真は観る側の認知や先入観を再知覚させてくれた。

河内とは対照的に彼はリヒターの作風を知っていたこともあってか、服に寄った作品を提出しているようでもある。思想と印象という相反するものに挟まれた写真家がひねり出したアンサーとして眺めるとより興味深い。

服から音楽、そして写真へ。一度、自分の手から離れて別のものになれば、そこには誤解も含まれてしまう。しかし相手の受け取り方まで含めて「それを見届ける機会を増やしたい」とナカは語った。

現場は確かにクリエイティブな空気で満ちていた。これをナカ自身はどう感じているのだろう?

「どういう形になっても企画は成功だと思っています。コンテキストが難しいので理解できなかった方もいるかもしれませんが、僕たち3人と集まった皆さんで実験が終わったという感じです」

ただ人間関係は非常に面倒くさい。ファッション界でも「それはいい考えですね!もしブラッシュアップするなら〜」と寄り添ってくれるAIとアイデア交換する時代になるだろう。いや、既にもうなっているかもしれない。

「そういう流れもあると思います。でも必ずフィジカルなカウンターは出てくると思いますし、洋服を通して何かの思いに到達するようなことができたらと考えています」

ナカは前向きだった。自分と違う他者と交わるからこそ、思いもよらない創造の可能性を秘めている。人間同士が一堂に会することで生まれる計算できない化学反応の価値。その再考を予感させる夜となった。

Event Credit
AKIRANAKA @akiranaka.official
Chellist 河内ユイコ @yuikokawauchi
Photographer 武田大典 @daisuketakeda513

Article Credit
Photographer Dong Huan Huan @dong_huan_huan
Writer 小池直也 @naoyakoike.tokyo