November,2025

グラフィックに宿るロスコの精神(エスプリ)
今期の秋冬コレクションのインスピレーションは、抽象表現の巨匠 Mark Rothko(マーク・ロスコ)の作品から得た学びに基づいています。
ロスコは生前、絵画を単なる物質ではなく「生きた存在」と捉え、絵画鑑賞を観客個人の「体験」であると語りました。この思想に触発され、私は今期のグラフィック制作において、何か具体的な内容を描くという方向性とは違うアプローチを模索しました。描かれた「内容」そのものよりも、「描く」という行為自体が滲み出るようなものを、構成的な美しさよりも感覚に訴えかけるものを考えていました。
ロスコの絵画と対峙した際に私が感じたのは、一種の「特別性」です。一枚一枚の絵画には人格に似た何かが宿っているように感じられました。
美術館での体験は、絵を「見ている」というよりも個性を持つ「誰か」と向き合っているような感覚でした。Rothkoの絵画を見て涙を流す人が多いのは、恐らくその感覚と関連があるのでしょう。
私は、このロスコ作品に内在する「人間性」を、いかにグラフィックの中に取り込めるかを考察しました。そこで生まれたのが、アンダーレイヤー(下層の色)によって表層が美しく変容するグラフィックです。下に隠された多様な色彩が上層に滲み出し、影響を与え合いながら表層を彩っていくというものです。
私が考える人の美しさというのは、その人が持ち合わせる個性と深く結びついており、それが滲み出る姿にあると信じています。そのような本質が見え隠れする様相には、ただ美しいイメージを超えた力が宿っており、その捉えようのない様 (さま)に強い力を感じています。
今季のグラフィックは、アンダーレイヤーの様々な色彩が表面のピンクに影響を与え、そのピンクを多角的に変化させています。大袈裟なコントラストではなく、微細な混ざり合いと色彩の変容の中に美しさを表現しました。それは、現存するどのピンクとも異なるものであり、彩度、明度、色調といった定義を超えた個性を纏った色なのです。



