October,2024
今季コレクションのグラフィックBibemusは印象派の画家ポール・セザンヌの代表作であるサント・ヴィクトワール山が描かれた土地にちなんで名付けられたものです。印象派の生まれた時代背景や彼らの絵画への勇敢なチャレンジに多くのインスピレーションを受けた私たちは今季の柄をより実験的なアプローチで制作することにしました。
印象派の画家達はチューブ絵の具の誕生により絵の具を外に持ち出すことが出来るようになりました。それまでは非常に時間をかけて作らなければならなかった色をその場で一色ずつ作っていく必要が無くなった為、自然光のもと目に映る景色を非常に多色な絵の具で即座に表現する事が出来ました。それが様々な色を隣接させる筆触分割という技法を生み、短い筆跡を連続させる事で移りゆく時間の淡い表現や動きの中の一瞬を切り抜いた様な光の表現を可能にしました。
様々な緑を並べで立体性を描いた “マンシーの橋” ポール・セザンヌ
ゆっくりと流れる朝の時間を印象的に描いた “印象・日の出” クロード・モネ
“ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会” オーギュスト・ルノワール
またセザンヌにおいては様々な類似色を隣接させオブジェクトの立体性までを色彩で表現しました。また前景、中景、遠景の色彩を使い分け空間に奥行きを感じさせる絵画を生み出しました。
”サント・ヴィクトワール山“ ポール・セザンヌ
この様な印象派の色彩による様々な表現を私たちなりに発展し、この筆触分割や色彩の隣接による新しいグラフィックの作成に取り掛かりました。印象派の画家達が屋外に出て自然光に映る具象を表現したのに対し、私たちはこれらの技法を抽象を表現する為に用いることにしました。特に絵の具をパレット上で混ぜずに原色をキャンバスの上で隣接させた彼等の方法に着目し、様々な色を布の上に隣接しそれを網膜で混ぜる(俯瞰して色彩のまとまりとして捉える)という試みでした。
今シーズンは4mの大きさの柄を作成しました。ランダムに配された様々な色はお互いを補いながら面の美しさを表現しています。しかしそれは補色の理論とは全く別のアプローチであり特定の色に対する色ではなく、空間に存在する様々な色による調和なのです。一見合わないと思われる色もその空間で他の色と存在する時に効果を発するようになります。
本来は成立しない隣接が別の存在(色彩)によって成立されていくという流れには色々な学びがありました。また色の可能性が自分の想像を大きく超えるものであるという学びも。
この柄が洋服になるまで多くの試みと思考が必要でした。しかし洋服になった時にそのプロセスを通ってしか生まれない姿になったこと、またしっかりとした個性を持ち合わせている事を感じました。このような洋服が持つ力というのは美しさを追求して美しさで着る人を覆っていく洋服とは全く違う感覚であり、それは美しさと共に知性を纏うという高揚感なのです。知性を帯びた美というものは見る人全てが理解するものではないですが、纏う人の心と意識を確実に高めてくれるものだと信じています。