AKIRANAKA

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November,2025

Autumn / Winter 2025 “Wandering colors”

今季私達は抽象表現主義の巨匠MARK ROTHKO / マーク・ロスコからインスピレーションを受けてコレクションを制作しました。
2023年パリのフォンダシオン・ルイ・ヴィトン美術館で開かれた24年ぶりの大回顧展でロスコ絵画を観た経験は自分にとってアートと向き合う意味そのものを変容させるようなものでした。「絵画とは経験に基づいて描かれているモノではない。経験そのものなのだ。」というのは彼の言葉ですが、ロスコの絵画と対峙するという事は自分が経験したことのない体験そのものでした。

ロスコと言えばマルチフォームと呼ばれる3色で構成されたミニマルな絵画が有名ですが、私が特に感銘を受けたのは彼の絵画を4つの時代に分けた時、その3番目にあたるトランジション期と呼ばれる1946年から49年にかけての作品です。

第2期であるシュールレアリスト期から更に抽象化が進み色彩が流動するような作品群からは画家の精神性や人間性、葛藤、挑戦、創造性など様々な物が生々しく感じ取れます。
世界を魅了したあのマルチフォームが生まれる直前の僅か4年間にだけ描かれたトランジション期のロスコ絵画には様々な視点、思考が入り乱れており非常に人間的かつロスコの人柄を映し出しているように感じるものです。

No7 / 1951 (クラシック期)

無題 / 1948(トランジション期)

トランジション期の絵画に私が見出したのは作家の残した筆跡が写し出す生命感であり、キャンバスに乗せられた絵の具ではなく生命を帯びた存在のような感覚でした。
また絵画のアンバランスさや構成の不在がイメージに人間性を与えており、色彩の隣接により生まれた柔らかな表現は作家の個性の縮図のようでした。無造作に見えるオブジェクトの配置には絵画全体に安定や落ち着きをもたらす効果があり、非常に多色で表現されながらもそこには沈黙を感じさせる静寂がありました。

No19 / 1949 (トランジション期)

No21 / 1949 (トランジション期)

ロスコ絵画に描かれた新しい表現には多くの学びがあり、それは自分の創造の過程に新しいビジョンを与えてくれました。
このコレクションでは私がロスコ絵画から感じた多くの新たな視点(下記参照)を実験的に取り入れ洋服のデザインがどのような表現を持ちうるのかに取り組みました。

・具象からの離脱
・人間性を帯びたディテール
・静けさの対話
・存在の許容と隣接
・色を超えた色彩の応用力
・色というテクスチャー
・彷徨う色

これらの視点を取り入れる事で今季の洋服はクラッシックなディテール(具象)が抽象的に変容され、新しいバランスを生み出しています。また歪(いびつ)さや混沌をポジティブに捉えたデザインは洋服に自由さや個性を付加しており、敢えて整えない事で洋服のイメージをモダンに昇華しています。またグラフィックに関しては滲み(にじみ)を取り入れた色彩表現で色の提案を新しい領域に引き上げています。

デザインやデザインプロセスに美しさや機能以外の何かしらの意味や象徴を持たせるという行為は非常に日本的であり、また秘められた行為とも言えます。
ただ全てが開示され何処へでも直ぐにアプローチできる現代の社会において何かに思いを馳せ何かを探すという行為は非常に貴いものであり、美意識や知性を深める為にはなくてはならない姿勢だと私達は信じています。