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January,2025

リヒターから学び得たもの

「私は物事をぼかして、すべてが同じように重要で、同じように重要でないようにする。」 Gerhard Richter 1964

リヒターの「全てが重要でまた同じように全てを重要でなくする」と言う等価値化のビジョンは彼の生涯の様々な作品に継続的に表れている。初期のフォトペインティングにおいてはキャンバスにプロジェクトした写真を模写するという方法で描く行為写す行為を等価している。当時はフルクサスと言う現存する芸術(絵画や彫刻)を否定する運動が強かった中、コピーという手段を使う事で絵画表現を否定しながら同時に絵画自体は肯定することをやってのけた。

※ 参照先サイト:The official website of Gerhard Richter (www.gerhard-richter.com)

作品Youth Portraitにおいてもドイツ赤軍のリーダーの1人ウルリケ・マインホフを活動家としてではなく1人の女性として描いている。それはプロパガンダによって大きな渦に飲み込まれた彼女の様々な側面を等価しており、非常にニュートラルな視点で彼女を1人の人間として捉える事が出来る様に私たちを導いている。晩年を代表する作品ビルケナウにおいてもスキージ(筆の代わりに使用したアクリル板を貼った棒状の板)を使用して描きながら元の絵を削るという創造消去を等価している様な絵画もある。

※ 参照先サイト:The official website of Gerhard Richter (www.gerhard-richter.com) Youth Portrait (Link) / Birkenau (Link)

私はリヒターが繰り返す等価という表現に大きな関心を覚える様になった。それは現代の社会で日常化されたラベル化価値化に一つの新しい視点をもたらすと思えたからだ。SNSではフォロワーやいいねの数が様々な物事を指標化し、社会では溢れる情報が伝聞を通して拡大される。正しさや良さ、美しさが典型として常に目の前に映る時代において個人としての美意識や思考、視点を持つことは非常に重要だ。

そこで私たちは今シーズン新しさ創造性、また描くという行為に等価という価値観を取り入れる試みを行った。毎シーズン新しいカッティングを提案しているジャケットは今シーズン半身だけをアップデートした。つまり右身頃は以前にデザインした弊社ノーカラージャケットをそのまま使用し(デザインを行わない)、左身頃には全く新しいラペルのデザインを取り入れた。同じジャケットの中においてデザインをする行為とデザインをしない行為を並列し創造と模写を等価した

また今季グラフィックにおいては花束を描いてからその絵を削り消すという方法を取り入れた。アトリエで様々な花を描いた後、それぞれを部分的に削り、消し去りながら美しさを探していくというプロセス。そこには花束を美しく描くというビジョンではなく削れた部分を含むイメージの濃淡が如何にエモーショナルに着地出来るかという新たな視点が生まれた。描くという表現と消すという行為の等価として制作したグラフィックは美しさが整った様だけに見出されるものでない事を私達に教えてくれた。

リヒターの「全てが同じ様に重要で同じ様に重要でなくする」という視点は私達が持つ個々の視点が如何に重要かを伝えている。そしてそこには物事を一方方向から見てしまう私達に新しいビジョンを与え多様な美しさへと私達を導いてくれる。私が今季デザインしたものには私が捉えた等価値化を象徴的にまた記号的に取り入れたアイテムが多くあるが、この一つ一つのデザインにあっても個々がそれぞれの視点でそれぞれの理解を辿れば良いと考えている。そしてその行為こそが美しさに広がりを与え自身の美しさに至る大切なプロセスなのだと信じている。